傍居り人(はたおりびと)
終戦から随分月日が経ち
戦時中に敵将の子を孕んだアイクの腹は、大きく実り臨月を迎えようとしていた。
そうして、日に日にある思いがよぎる。
孕むなら”あの男”の子供を授かればよかった…と
宗主国の総司令官、亡くなった自分の父親に面影を重ねていたあの男のことを。
惹かれていた、今ならわかる。
でもこの身になった今では、その感情はもう遅かった。
「馬鹿だな…今更気がつくなんて」
当時、女だということをかたくなに認められなかった俺が…自ら相手(男)を求めることなんて
出来るはずもなかったろうに。
その男のことを考えると想いと後悔で胸が苦しい、そんな感情が溢れてきた。
「う…くっ」
父が亡くなった時に泣きもしなかったはずが
我ながら硬い表情で涙をもらしてしまった、それがまた辛く情けなかった
涙をこらえるせいで顔がゆがんでいく、これ以上こらえると嗚咽まで上げてしまうかもしれない…
そんな時だった。
ぽこんっ
「っ?」
大きなまるい腹が一瞬盛り上がる
仄暗い気持ちになった母を見透かしたのか、腹の子は元気に内壁を蹴った。
もう一度。
ぼこっ!
「んく…っ」
目が覚めるように、ぴくりとアイクは反応した、いまの蹴りは随分強かったからだ。
なおも元気に蹴る、何事かと落ち着かせてやるように腹をさすってやると
今度は手の動きに合わせて内壁を優しくなぞりはじめた、アイクは驚いた、普段蹴りはしても今までこんなことはなかったからだ。
思いのほか腹の子は随分成長していたことを知り、自分もなぞりかえしてやると、軽く蹴った。
しばらくして大人しくなる。
「よしよし、いい子だな…」
一息つくアイク
言葉をかわさない、それだけの行為に暖かくなるような不思議な感覚が生まれる。
「そうだな…俺らしくない
これから産まれてくるお前を、育てていかなきゃならないんだからな……」
わが子のささやかな気づかいを推し量り、母親は硬い表情に少しだけ笑みを足してみた。
「さてと、さっきの蹴り具合だと男の子か?…そろそろ名前考えないとな、
ミストにも相談してみようか」
フラグクラッシャーと呼ばれるアイクさん自ら失恋経験しちゃうのもいいなぁ…などと。
タイトルの傍居り人は単純にフラグクラッシャーの当て字です。
アイクの孕んだ子は敵将と想い人が同一人物(漆黒さん=ゼルさん)なので、形は違えど願いは成就されています。